タルタルソース:1980年代

エビフライにタルタルソースがついてきた。ゆで卵とパセリのみじん切りをちらしたマヨネーズ味のタルタルソース。この庶民的な味付けのソースを食べるたびに必ず思い出すのは、北海道の小さな小料理屋のサラダだ。

中学生の頃、父の仕事の都合で1年半ほど北海道に住んでいたことがある。北海道への転勤が決まったとき、姉は高校生で、さすがに北海道の高校に転校するわけにもいかず、姉は近所に住んでいた親戚の家に下宿することになった。

北海道に転居した後、母は2ヶ月に1度は姉の様子を見にいくために家を空けた。その間、父と私と弟は3人で暮らしていたはずなのだが、あまり詳細は覚えていない。ただ、1つ今でもはっきりと覚えているのは、そんな母がいないある休日、父が晩御飯を食べに地元の小さな小料理屋につれていってくれたときのことだ。

中学生だった私は、外食をすることすらも珍しかったので、小料理屋という未知の場所に足を踏み入れたのはこれが初めてだった。父と一緒にカウンター席に座って、板前さんと会話をしながらご飯を食べるなんて、とても大人になった気分がした。その日、父は機嫌がよく、板前さんと会話をしながら少しお酒を飲んでいたと思う。

お通しとして出てきたのは、小振りの鉢に冷たいシャキシャキレタスの千切りを盛って、クリーム色のタルタルソースに鮮やかなパセリをちらしたサラダだった。雪の外気に負けないように暖めてある店が暑いくらいだったので、みずみずしい冷たいサラダがすごく美味しく感じた。頼んでいないものが出てきたことにも驚いたけれど、イカそうめんなどを食べている中、なんだかちょっと不思議なものが出てきたなあと思ったものだ。

父は生野菜を食べない人だったが、このサラダを食べて「うまい!」を連発した。「うちのサラダもこんなサラダだったら、俺も食べるんだよ」と目を細めた。父は朝から晩まで仕事をしているような人だったので、そんな姿を見る機会はあまり多くなく、私はなんだかとても嬉しかった。

それからというもの、私はときどき父に同じサラダを作って出すようになった。料理というほどのものではない。ただ、レタスを千切りにして、器にもって、その上に、ゆで卵が入ったタルタルソースを乗せるだけ。それだけなのに、父はうまいうまいと言って食べてくれた。

今日のエビフライには千切りのキャベツがついていた。それとタルタルソース。ごく普通のエビフライの献立だ。それでも、私の頭の中は冷たい千切りのレタスの小鉢でいっぱいになる。北海道の寒い夜。名前も覚えていない小料理屋のカウンター席、隣に座る父の嬉しそうな顔。

今年、父は81歳。次に会う時は、久しぶりにあのサラダを作ってあげたいと思った。

Comments

  1. はちどり より:

    いいお話ですね〜。もっともっといろいろなエピソード伺いたいです。感受性が豊かなんですね。

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