パラノイアの迷宮 (米国大統領選挙2020)

12月14日、大統領選の各州の結果を踏まえ州の選挙人により大統領を選ぶ投票が実施される。これが正式な次期大統領を選出するプロセスであり、選挙人投票を目前に控えた各州は、次々と州の投票結果を認定している。

選挙前と選挙中に接戦の舞台であったペンシルバニア、ジョージア、ミシガン、ウィスコンシン、アリゾナは、選挙後は、トランプ大統領側から提起された何十に及ぶ訴訟の舞台へと変わり、多くの訴訟が毎日のように裁判官によって退けられたり、取り下げられたりしている。

どう考えても、今更、選挙結果を覆すことはできないという事態になっても、トランプ大統領の不正選挙の主張は続き、彼は敗北を決して認めようとしない。よって、数ある訴訟も、何度退けられても、敗訴になっても、まるで死んでは生き返るゾンビのように手変え品変え、裁判闘争が終わることがない。裁判が終わらなければ迷惑する人たちはたくさんいるが、得をする人もたくさんいる。弁護士がその筆頭だろう。

さて、トランプ大統領には世論とはまったく違う世界が見えているらしい。彼は本当に選挙に勝ったと思っているし、選挙結果は不正によって作られたもので、勝者はあくまでも自分でだと装っているのではない。多分彼は信じているし、それを信じさせる人々がいる。

トランプ大統領のこのような言動は、選挙前から予想されていたので驚きはないとしても、問題は彼の周りに、彼の訴訟を後押しする共和党の政治家や弁護士や支持者がたくさんいることだ。ようやく最近になって、共和党内でも彼の主張とは違う発言が増えてきたものの、選挙直後は多くの共和党議員は彼の後押しをするか、口をつぐんで無言を押し通した。よって、トランプ大統領はより強く深く自分の勝利を信じ、それを主張するに至ったのである。

そもそも、選挙に敗北したと報道されたときから、トランプ大統領の現実からの逃避は始まった。多くの側近の中には彼を現実にとどまらせようとした人たちもいただろうが、同時に、彼を喜ばせる幻想を語る人たちも相当数いて、「選挙に不正がなければ貴方が勝ったはずだ」としきりに彼の喜ぶ言葉を耳打ちしたようだ。

問題は、彼も彼の側近も選挙当日まで勝利を確信していたことだった。たしかに世論調査では劣勢ではあったが、2016年の選挙でも彼は世論調査では負けて、選挙では勝ったのだ。その時の栄光の記憶の中に彼らはずっと住み続けていた。その上、選挙当日の深夜までは郵便投票の結果が反映されていなかったため、圧勝状態だったトランプ陣営は心底勝利を確信していたのだろう。実際は、以前から専門家が解説していたように、郵便投票の集計が始まると彼のリードは刻一刻と縮小していった。トランプ大統領からすれば、一度は勝ちとった勝利を、後から(郵便投票によって)盗まれたというわけだ。

コロナのために多くの人々が、特に民主党の呼びかけにより民主党を支持する人々が郵便投票をすることはわかっていたため、実はトランプ大統領も側近の一部から、共和党を支持する人々にも郵便投票を呼びかけるように勧められていた。しかし、彼は陰謀により郵便投票が集計されるかどうか信用できないので郵便投票はしないようにと、アドバイスとは反対の呼びかけを支持者に対して行った。この時点で、彼の敗北への道が敷かれ始めたといっても過言ではない。

選挙前のトランプ大統領の弁護団はなかなか良い仕事をしていて、不在投票の締切をや署名の不整合による問題点などの訴訟をうまく処理して、共和党の主張に有利に勧めていたこともあった。トランプ大統領の側近に能力がないというわけではない。ただ、トランプ大統領が優秀な人々の進言を十分に取り入れなかったことに問題があったと思われている。

選挙後は、突然表舞台に走り込んできたジュリアーニ弁護士がまとめる弁護団が、非常に攻撃的な訴訟を次々と起こし、トランプ大統領は彼らのチームを全面的に支持した。この頃から、選挙前の弁護団はその存在を消していった。勝てそうにない無理のある訴訟内容や、ジュリアーニ弁護士の弁論があまりにも穴だらけだったため、弁護団としてその場にいたたまれなかったし、今後の弁護士ビジネスにも影響すると考えたのではないかともいわれている。例えば、まだ開票中だったペンシルバニアの開票を停止しようとした弁論において、弁護団は共和党側の監視人が開票場の中に入るのを妨害禁止されたことを訴えの根拠として提示したのだが、裁判官の鋭利な質問に答えているうちに、実際は「共和党の監視員が1人も入れなかったというわけではない」こと認めることになった。この弁論に対して、裁判官は「いったい君の問題はなんなんだ?」と語気を荒げてコメントしたと報道されている。

今回の選挙で最も注目されたのはジョージア州だが、ここでは選挙システムの集計マシンに不正がプログラミングされて、トランプ票がバイデン票に切り替わって集計されたというびっくり主張が展開されている。現在のところ、明確な証拠は一切あげられていない陰謀説に過ぎないが、真実としてトランプ大統領からも、その弁護団からも、繰り返し主張されている。彼らは陰謀論が大好きだ。

ちなみに、これは共和党にとってよい流れではない。なぜなら、ジョージア州では1月5日、前回接戦すぎて決まらなかった上院議席をめぐる決選投票が予定されている。通常であれば共和党候補のほうが若干有利な流れであるのだが、トランプ大統領による集計システムによる不正の可能性の主張は、共和党支持者に1月5日の投票に対して二の足を踏ませる可能性がある。それによって、もし民主党候補が勝ってしまった場合、共和党は上院での過半数の議席を失う可能性があるのだ。ジョージア州の選挙管理委員は共和党員だが、今は陰謀論やファンタジーにうつつを抜かしているときではなく、現実を見るべきだと厳しくコメントしている。

トランプ大統領と彼の弁護団は、選挙の不正を具体的な証拠をあげることなく訴えて続け、その論調の突拍子のなさはどんどんと加速していった。ジュリアーニ弁護士を中心とした弁護団が11月19日に記者会見を行ったのだが、7年前に亡くなったベネゼエラのコミュニストの支持により、今回使用された票集計マシンには不正がプログラミングされているという更にびっくり主張が飛び出た。もちろん証拠はない。こんな調子で、結果を出せないジュリアーニ弁護団の脆弱さにも関わらず、訴訟に勝つのは難しいだろうという弁護士たちの意見よりも、絶対勝てると主張し続けるジュリアーニ弁護団の言葉は、トランプ大統領の耳に甘く響き続けられている。

選挙から20日がすぎ、政権交代への頑なな拒否により、米国の安全保障やウィルス対策の遅れが世論で強く懸念されるようになってから、ようやく大統領の側近のたちは、政権交代を認めるように大統領を説得し始めたが、大統領は政権交代を認めるのは敗北も認めることになるのではないかと断固拒否し続けた。そこで彼らは、政権交代を認めても、敗北を認める必要はないという歪められた論理を使って、なんとか大統領の説得にこぎつけ、11月23日にとうとう大統領は政権交代を認める事になったのである。

トランプ大統領は、選挙での敗北を未だ認めていない。

この流れで最も傷を受けたのは米国民主主義だといわれている。民主主義の根幹である選挙制度が信用できないという印象を国民に広め、トランプ大統領に投票した7000万の投票者たちは、一生この選挙における不正を疑い続けることになるのではないかと言われている。これだけ多くの国民が選挙を信じられなくなった国で、どうやって民主主義を構築すればいいのだろう。今回米国民主主義が受けた深い傷が癒やされ、米国が再び民主主義を代表する先進国に戻れるまでには、今後何年かかるかわからない。

参照:ワシントン・ポスト「20 days of fantasy and failure

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