カリフォルニアと銃

前回の「米国と銃」のフォローアップ。火曜日にサンノゼで発生した銃撃事件は、シリコンバレーに不安と悲しみを刻んだままだ。毎日、被害者の情報と被害者の家族の悲しみが新しく報告され、同時に加害者の動機を考察するための様々な情報が流れる。

今回の銃撃事件で亡くなった9人のうちの1人は、我が家のティーンのハイスクールに通う兄弟の父親だったことが判明して、学校から遺族への寄付をよびかけるメールがきた。知り合いでなかったとはいえ、同じ地域に住み同じ学校に子供が通う家族が被害にあったことを知ると、事件はさらに重く感じられる。来週、その兄はハイスクールの卒業式だが、彼の晴れ姿をみてくれる父親はもういない。せめてものお香典にと、私もウェブサイトを通じて寄付をした。

加害者の情報はあまりたくさん集まっていない。どうやら加害者は相当に孤独な男だったらしく、家族も友人も、誰もニュースには出てこない。唯一、12年前に離婚した妻と、別れたガールフレンドからのコメントが出ただけだった。事件のあった職場であるVTAでも、彼は同僚と会話をするようなこともなく常に1人でいたようだし、事件当日に自ら放火したらしい彼の自宅の近所の人たちも、彼と会話をしたことはほとんどなかったらしい。

わかったことといえば、彼がもう10年以上、職場であるVTAに不満を持っていたことや、テロリズムに興味があり調査を受けたことがあること、元ガールフレンドに暴力を働いたために裁判所から接近禁止命令を受けたことがあること、職場では静かだったが、時々差別用語を使ったり、銃器を所有していることを自慢することがあったらしいことなどだ。危険人物であったことがわかる。

少ない情報のなかでも、2つ重要な事実がある。1つ目は、事件当日、彼はVTAから特別なミーティングにくるように言われていたこと。そのミーティングは通常、従業員に問題がある場合に行われるもので、注意を与えられたり、最悪の場合は辞めさせられることもあるというものだった。どうやら、犯行日はこれによって決まったと思って間違いない。

もう1つは、放火された彼の自宅は幸いなことに消し止められたため、たくさんの証拠になる物件が押収されたのだが、その中に12丁の銃器、2万5千個の銃弾、そのほかにも爆弾を作るための材料などの危険物がごっそりと入っていたことだ。つまり、この事件はもっと大きな事件になる可能性も高かったし、彼がいつかはやってやろうと計画してきたのは多分間違いない。それにしても、それだけの銃器と共に暮らしていたことがわかった近所の住人はゾッとしたに違いない。

さて、近所に銃を持つ人がいるかどうかは、米国に住んでいてもわからないことが多い。特にカリフォルニアは全米の中でも銃規制が厳しく、銃弾の込められた銃の携帯は認められていない。持つ場合は、あくまでも家で厳重に保管し、家の防犯目的での使用だけが認められている。だから、近所の人が銃を家に持っているかどうかなどは聞かない限り絶対にわからないし、聞かれない限り自分で宣言する人は普通いない。もし他人に自慢する人がいたら、私ならその時点でちょっとまずい人かもと思うような気がする。しかし、実際に銃を持っている人はたくさんいるようで、多分我が家の近所にもいるのだろう。州でばらつきがあるとはいえ、全米で平均を取れば3軒に1軒の家は銃を所持していることになるのだから。

カリフォルニアの銃規制についての話題が出たついでに説明すると、各州の自治が強い米国では、州ごとに銃の規制法が違う。カリフォルニアは最も厳しい規制を敷いている州のひとつであり、銃購入時のバックグラウンドチェックも厳しいし、半自動小銃であるアサルトウェポンも禁止されている。その上、レッドフラグ法と呼ばれる「家族や同僚、法務執行機関、メンタルヘルスの専門医などが、自分や他の人々に危害をもたらす兆候のある者の銃器へのアクセスを禁止する保護命令を裁判所に申請できる」規則を採用している。

にもかかわらず、にもかかわらずだ。銃による犯罪も、精神不安定者による銃撃や自殺も普通に発生してしまう。これでは、銃規制を厳しくしても意味がないと主張する銃愛好家をバックアップしてしまっているようなものだ。どうして、カリフォルニア州の銃規制はうまく働いていないのだろう

実は全く働いていないというわけではない。その証拠に、カリフォルニアでの銃による死亡率は全米で7番目に低いと言われている。しかし、それでもあまりにもたくさんの人が銃の犠牲になっていることには変わらない。これだけ規制の厳しい州なのに、これらの銃は一体どこからやってきて、どうして銃を持つことのできないような人の手に渡るのだろう。

様々な説があるが、1番の問題は連邦政府による厳しい銃規制がないために、銃規制が非常に緩い州がたくさんあるので、銃規制の厳しい州の住人は銃規制の緩い州に足を伸ばすだけで簡単に銃を入手して、自分の家に持って帰ることができることだ。自治が強いとはいえ、州境には国境のようなものがあるわけではなく人々は自由に行き来をしていることを考えれば、当たり前のことなのだ。それに加え、州を超えた銃の売買も行われているため、カリフォルニアで銃を手に入れることがどんなに難しかろうが、銃を本当に欲しい人にとってはほとんど意味がないらしい。

それでは、レッドフラグ法の効力はどうなのかといえば、これがまた恐ろしいことがわかった。レッドフラグ法により、なんとカリフォルニア州では23598人がすでに銃を持つことを禁止されているにもかかわらず、いまだ銃を所持しているというのだ。どうしてこんなことになったのかというと、レッドフラグ法を施行するためのチームが30人から40人ぐらいしかおらず、それだけの人員でカリフォルニア州全部を担当しているというのだ。何時間もかけて車を運転し、レッドフラグ法により銃の所持が不許可になった人の家を訪れ、銃を押収するという仕事は、1人ぶらりと行ってできるような仕事ではなくチームワークだ。それを考えれば人数は圧倒的に足りない。昨年、彼らが没収することができた銃の数は1243丁だが、未だ23000人を超える人々が押収対象として存在し、彼らの家を訪問しては、一丁とは限らない銃を押収しなくてはならないのだ。全く人員が足りていない。

かくして、銃規制の厳しいカリフォルニアにも、銃は溢れかえり、その上、銃を持つべきではないと裁判所に判断された人も銃を所有したままという事態を招いているというわけだ。銃規制に関しては、連邦政府が旗を振って規制しない限り、限界が大きい。かつて、アサルトウェポンを十年間連邦議会が禁止したような、あのような動きがない限り、アサルトウェポンですらごく普通にコミュニティに出回ってしまうだろう。

ここでひとつ強調しておきたいのは、これまでの話を読むと、まるで米国には暴力的衝動が高い国民性があるように思えるかもしれないが、実は米国での暴力事件の発生率は他の国々と比べて似たり寄ったりだそうだ。違いは、事件に銃が使われることにより、銃による死傷者が飛び抜けて多くなっていることなのだ。

じゃあ、銃を規制すればいいじゃないかと多くの米国民は考えるが、これは、憲法に武器を持つ権利を入れているこの国の歴史とメンタリティがそれを許さない。多くの米国人の銃に対するメンタリティは、普通の日本人には理解の及ばないところがある。彼らのとって、銃はいまだに横暴な制圧から民衆を救う「自由」の象徴であるのだ。このメンタリティを理解するには、この国の歴史を深く理解しなくてはならない。

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Comments

  1. 甘栗 より:

    アップデートありがとうございます。
    我が家では、犯人の不満は、デリケートな問題である、アメリカ国内の人種間の争いがあるのではと話しています。
    VTAは政府系の職場であるため、給料もベネフィットもとても良く、庶民の間では憧れの職場です。そのためにコネ就職が殆どなのです。
    メンテナンス部門はメキシコ系、オペレーション部門はシーク系、それ以外全てはベトナム系、中国系、管理職のほとんどは白人と、棲み分けのようになっています。
    犯人は、自分はもっと良い給料を貰うべきだ、良い地位につくべきだと、常から不満を漏らしていたそうです。
    メンテナンス部門は、安全のために3ー5人のグループで仕事をしていても、実際働くのは一人だけで、仕事は6割型、後の4割は職場に持ち込んだベンチでエクササイズに勤しんでいます。強者は職場の器具を使って、個人的な車の修理やペイントのアルバイトに勤しむものもいます。
    オペレーション部門では、難民指定で移民して来たものが結構いて、彼らは本気でイギリスに亡命した親戚よりも待遇が悪いと、職場の法務部門に文句を言いに来るものがいます。
    ベトナム系も難民指定で移民して来た人やその子供達が多く、就職ができる規定に達していなくても採用されたり、就職しているのに何故か生活保護を受け続けているとか、話が漏れ聞こえて来ます。
    その中で白人であれば、上層部に強力なコネがあるか、実力が本当にあるかでないと、なかなか楽に人生を生きる事ができません。古き良きアメリカを懐かしんでいると、不満ばかり出てくるでしょう。特にサンノゼはアメリカの中でも特異な場所になってしまいました。もう西部開拓時代では無いのです。
    そうした人が簡単に銃を手に入れられるとしたら、起こる事は一つしかありません。
    でもそう言った暴挙にでる人は一握りで、残りの人達は真摯に生活をしているのだと信じたいです。

    • sarukunSV より:

      甘栗さん、貴重な情報をありがとうございます。
      知らないことばかりでとても勉強になります。本当に米国の移民の問題はあちらこちらで軋轢を生んでいるようですね。
      うちのティーンエイジャーが英語の課題で「アメリカ人とは」というテーマでエッセイを書きましたが、彼いわく「アメリカ人とはすべて移民である。ネイティブも含め、誰もが最初は別の場所からやってきて、この地を良くするために集まった人々である」という趣旨で書いていましたが、ハイスクールの学生たちが考える理想の米国というのが実現される国であってほしいものです。

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